長文レポのサンクチュアリ
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●「浅草艶絵巻 11月公演」レポ

2016年11月26日(土)浅草リトルシアターに行って艶絵巻の楽日を見てきました。新作2本を含む4本立てで、その4作品それぞれが濃く、深く、そして美しいまさに艶絵巻でした。
出演は女優陣が灯月いつか、朱魅、牧瀬茜、RIKA、つちやまい、和田渚、男優陣が小林歩祐樹、小枝ノリユキ、森健太郎、大橋健太郎、演出並びに司会は山口六平の皆さん。以下、簡単に。

1「春琴抄」(谷崎潤一郎原作)
暗転の中、わらべ歌のようななつかしいような歌声。照明がつくと、上手から佐助(小林)に手を引かれた春琴(灯月)が白い杖をついて出てきます。これだけで既に絵になっています。このコンビでもっと続けてほしいのですが、小林さんは今回で艶絵巻卒業とのこと。
ストーリーは分かっていますが、こまかい仕種、台詞など、今まで気がつかなかった新しい発見がいっぱいありました。この春琴・佐助2人のことは他の者にはとうてい真似はできない。けれども強く惹かれる、究極の愛の世界。
ラストで二人がよりそって下手に去っていくところは、後光がさしているようでした。拍手。

2「細川ガラシャ」(「霜女覚書(しもじょおぼえがき)」より)明智光秀の次女として生まれ細川忠興に嫁した玉子(洗礼名ガラシャ)の悲劇です。
暗転の中、讃美歌が清らかに流れてきます。
照明がつくと舞台中央に金襴の着物で後ろ姿で祈っているガラシャ(RIKA)、後ろ姿ですが、すでに犯しがたい気品があります。そしてその脇に侍女(まい)、手前に家来の2人の武士(大橋、小枝)。
物語は2人の武士の会話から始まります。時は関ヶ原の戦いの前夜、石田三成の命で近隣在住の武将の妻子は大阪城に集まるように命じられたが、ガラシャは、自分が人質になれば徳川方についた夫に背くことになるとこれを拒み、むしろ死を選びます。しかしキリシタンの教えでは自殺は大罪です…
家来の武士や侍女それぞれの心のかっとう。
特に武士役の小枝の演技が良い。密かに奥方様に憧れているのが痛いほど伝わってきます。最後に
「この場ではおそれ多い、城門にてお供つかまつります」と言ったのは彼の唯一の愛の告白だったのか。
そのあと一瞬の静寂。
そしてガラシャは倒れた姿勢からゆっくり立ち上がると
やや暗い赤い照明の中で踊りになっていきます。和とも洋ともつかぬ
これまでにない踊り。かすかな微笑みさえうかべて。
日本の価値観とキリスト教という対立する2つの価値観を一身に背負ってしまった女の悲しくも美しい物語。その姿は聖母のようでもあり、アフロディテのようでもありました。拍手。

3「夢十夜」(夏目漱石原作)短編小説集「夢十夜」の「第一夜」に、牧瀬さんの創作をおりまぜた幻想的で美しい物語。
照明がつくと。
男(森)がマンガを読んでグータラ。女(牧瀬)は「ちゃんと働いてよ!」と言っていますが男は何とか理屈をこねて一向に働く様子が見えない。俗に言うヒモのようです。
そんなふうに現代の、どこかにありそうな話が2景続きます。そして同じ顔ぶれで自然な流れで
3景の原作になっていきます。
清楚な空色のドレスの女が「もう死にます」男「そうかね、もう死ぬのかね」女「死にますとも」
男「死ぬんじゃなかろうね、大丈夫だろうね」…
以下ほぼ原作通りになっていきますが、最初の2景は関係ないようで
原作に艶と立体感を与えています。さすが牧瀬さん。
それにしても不思議な物語ですね。何かの暗喩か、何か教訓があるのか、
わからないけれども、どこか暖かい、救いのある物語。
そのあと牧瀬さんのダンス。
笑顔でやさしく
女神のように、すべてを包み込むように。 
そんなふうに終わります。拍手。「ブラヴォー!」

4「唐人お吉」(村松春水原作)
この名を聞くと人は歴史の1コマと片付けてしまいがちですが、一度この舞台を見るともう無関係ではいられなくなり、お吉(朱魅)と一体になって、「今の」「自分の」こととして物語は進んでいきます。
時は幕末。タウンゼント・ハリス(当時51歳)に妾として仕えることを幕府に命ぜられたお吉。だが本当の悲劇はそれではなく、戻されたあとの周囲の日本人たちからの差別と偏見。
さきほどの「細川ガラシャ」とは別な意味で、日本と西洋との板挟みになった日本女性の悲劇。
モーツァルトのレクイエムが流れ、舞台奥に黒い服の男女たち(まい、渚、小林、小枝,森)。
舞台中央に着物姿のお吉が立っています。
無垢な、悲しい時には泣き、嬉しい時には笑顔の、ごく普通の女の子。
それが17才の時、運命は急変。
幕府の命令には凛として、これを拒絶。
そして運命を悟った時の、諦観というのか、生死を超えたような顔。
それぞれの表情がうまい。朱魅さんでないと出来ないですね。
芝居のあと着物姿のまま、あえて乗りの良い曲にのって
着物姿のまま踊ります。手拍子。自嘲か、あるいはもっと深い意味があるのか、かすかに笑みを浮かべて。やがて赤い和傘を持って、雨の中,入水したとされるお吉の言葉にならない思いをあらわすように踊っていきます。そんなふうにして終わります。拍手。

引き続きカーテンコール、全員出てきてメンバー紹介。ここで小林歩祐樹さんに花束が贈られます。拍手。
なお艶絵巻12月は21〜24日。来年からは1回に8日間を予定していますとのこと。そんなふうに盛り上がって終わりました。

- 11/27 16:14
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