2015年10月23日(金)浅草リトルシアターに行って「浅草艶絵巻〜日本文学と女の情景」を見てきました。先月はお休みだったので8月以来です。今回(10月22日〜24日)は新作の「刺青」と、配役が少し変わった「義血侠血」「にごりえ」の3本立て。出演は女優陣が牧瀬茜、朱魅、灯月(ひづき)いつか、土屋麻衣(つちやまい)、男優陣が小林歩祐樹(ふゆき)、小枝ノリユキ、初参加の越智裕介(おちゆうすけ)、森佳樹(よしき)、山本りょうの3人、そして前説は山口六平の皆さんでした。以下簡単に。
劇場に着いたのは開場の19:15の少し前。入口前には数人が並んでいます。そして開場。階段を上がって受付で、笑友会員扱いで3000円。フライヤーを貰って中に入ります。2列目の中程の席に掛けました。のんびり開演を待っています。場内にはJポップスというのか、今時の歌が流れています。
舞台は上手の方に黒い四角い箱(椅子?)が置かれているだけで、他には何もありません。
お客は少しづつ入ってきて女性客も何人かいます。ただ客足は今一といった感じです。
19:30になって山口氏が赤いシャツで帽子を手に持って
「ハイ、こんばんわー」と言って舞台の前に出てきます。拍手。
そして前説。
1作目は新作の「刺青」谷崎潤一郎の作品です。2作目は泉鏡花の「義血侠血」後に新派が「滝の白糸」の名で悲恋ものの芝居にして有名になったものです。そして3作目が樋口一葉の「にごりえ」。著作権の切れたものばかりやっています(笑)。3作続けてやります、上演時間は1時間40分くらい、トイレは今のうちに、など注意事項。そして
「1作目は私の口上から始まります」
と言って、持っていた帽子をかぶります。
「江戸時代末期、それはまだ人々が「愚(おろか)」という貴い徳を持っていて、世の中が今のように激しく軋(きし)み合わない時分であった…」と語り始めます。「誰もかれもこぞって美しからんと努めたあげく、自分の体に絵具を注ぎこむまでになった…」
そして清吉(せいきち)という名人の彫物師の話になります。
ここで舞台前の上手から浴衣を着た青年(いかにも草食系男子)が心配そうに入ってきて山口氏に声をかけます。店の芸子見習いの娘が清吉さんの所に使いに行ったまま戻ってこないので迎えに来たが道がわからないとか、自分はその娘と恋仲なのだとか。
山口氏「それは心配でしょう、早く行っておあげなさい」青年は去って行きます。
一旦暗転。
照明がつくと
舞台中央やや下手寄りに淡い桃色(かオレンジ)の着物を着た娘(灯月)が立っています。
上手の腰掛には黒い着物を着流して胸元を少し粋にはだけた清吉(牧瀬)が掛けています。牧瀬さん初挑戦の男役ですが、目が輝いて艶(つや)やか。
二人の会話はほぼ原作通りです。娘は清吉にとって理想の女。
ここで清吉は娘に絵を見せて(ふり)反応を確認します。
男どもを食いつくす悪女を描いたSM的な絵ということ。
娘は恐れながらも自分にその気質があることを自覚します。
ここで清吉はオランダ医から譲り受けたという麻酔薬で娘を眠らせ、
後ろ向きにして着物をはだけさせます。
牧瀬さん強引な男を好演。
ただの乱暴者ではなく芸術至上主義な男を。
娘はゆっくり体を椅子によこたえていきます。その時の腰の動きがエロチック。
清吉は彫り針を取り出し
ここから墨を入れていく場面。
もはや会話はなく、動きもほとんどないですが
オペラのようなBGMと一体になって
耽美的というか嗜虐的というか
濃密で原色的な演劇空間になっていきます。
やがて暗転、静寂。
少しして照明がつくと
娘は胸を露にこちらをむいて腰掛けています。
(背中は見せないですが、仕上がったようです)
もはやうぶな娘ではなく妖艶な女に。
そこへ最初の青年が入ってきます。
ラストは原作とちょっと違っていましたが
原作のスピリットはむしろ強く伝わってきました。
暗転。
暗い中、哀愁のあるジャズピアノが流れます。
最初は静かに次第に激しく乱れるように。次の「義血侠血」の序曲になっています。
(この間、暗い中で舞台設定をしている様子)
やがて曲は静まります。
照明がつくと、おなじみのマイさん舞台中央に設置された演台を前にして着物姿で笑顔で立っています。そして
「義血侠血」と大きく書かれた本を開き、
「越中高岡より倶利伽羅(くりから)下の建場なる石動(いするぎ)まで四里八町を定時発の乗り合い馬車あり…」
と少し朗読します。やがて本を置いて
「このような書き出しで始められる泉鏡花の「義血侠血」ですが…」今回は大胆な解釈で、山場である法廷の場面を芝居にしました、あらすじは講談で、と言ってストーリーを語ります。
水芸の女芸人、滝の白糸(本名水島友)はたまたま乗った馬車で御者をしていた青年、村越欣弥(むらこしきんや)と出会い、数日後に再会、恋に落ち、村越の勉学のため仕送りすることに。しかし3年後、不運が重なり人をあやめてしまう。強盗殺人の被告人となったのは自分から100円を奪った南京出刃打ち(芸人の一種?)の男。検事となったのは
「…村越欣弥その人でありました」
暗転。
少しして照明がつくと、舞台の後ろには昔の厳めしい法廷服を着た弁護士、検事、判事の3人。
そこへ被告人が手錠のまま連れて来られます。いかにも小悪人。
そして自分は滝の白糸から金を奪ったが強盗殺人はしていないと主張。
弁護士は参考人として滝の白糸に質問することを要求。
そして滝の白糸(朱魅)が呼ばれます。
紺色のような着物で、
毅然と言うか、澄ましてというか、入ってきますが、
判事の姿を見ると、はっと動揺。
顔を(客席の方に)そむけます。
このとき簪の鈴が、小さくシャラン。
少し静寂。
改めて証言台に立ちます。
そして事件の夜に南京出刃打ちに会っていないかという質問に
会っていませんと言い張ります。気丈というか。
被告人はわめいていますが、判決はもう決まったようなものです。と
ここで村越検事が立ち上がって
「滝の白糸こと水島友!」と叫び、そして質問と言うより信念を語ります。
リアリティーを重視する現代小説とは違う価値観の物語ですが、そこがかえって
現代人の心に何か刺さるものがあります。
話を聞いた滝の白糸は、ふっと肩の力を抜いた表情で
「実は取られました」と言います。そして強盗殺人も自分がやったと語ります。
驚いて立ち上がる判事。
暗転。
このあとまたマイさんの解説。
滝の白糸と村越検事の二人だけの取調室の場面になります。ここからは原作にない展開。
検事は両手をついてすべては自分のせいだと滝の白糸に詫び、
自分に出来ることがあったら何でも言ってくれと言います。
滝の白糸は微笑みながら、自分は何も悔いていないし、命に未練はないよと言います。そして
自分が惚れていたのは村越検事じゃなくて御者の欣さん、一度欣さんにもどってほしいと言います。
村越は着ていた法廷服を脱ぎます。
そして二人、抱き合うようにして、溶暗。
暗い中,男は去り
滝の白糸一人が残ります。
照明がつき、女性ボーカルが流れます。
歌「美しい星に生まれ、巡り会う…」
そして踊りになっていきます。
夢見るように、上を見上げて。
やがて簪を抜いて口にくわえ、
髪を垂らすと急に妖艶に。
そして簪を椅子の上に置いて
帯を解き、着物を脱ぐと赤い襦袢。
やがてそれもはだけて赤い腰巻き1つになって胸を露に。
喜びも悲しみも超えた踊りになっていきます。
そんなふうにして踊りが終わります。
暗転。
最後にマイさんもう一度出てきて
「さるほどに予審終わり、公判開きて裁判長は検事代理の請求は是なりとして水島友に死刑を宣告せり。…村越欣弥は宣告の夕べ、寓居の二階にて自殺」
感情を抑えた声で語り終え、静かに去っていきます。
暗転。
暗い中、悲しいような懐かしいような曲が流れてきます。
ここから「にごりえ」になっていきます。
照明がつくと
上手から薄いグレーの丈の短い着物を着た娘(灯月)が元気に歌をうたってやってきます。
(スワニー河の曲でマッチ売りの少女を歌った「哀れの少女」という明治時代の歌だそうです)
すぐあとに小さな帽子を被り唐草模様の荷物を背負った小男が
「そんなしんきくさい歌を歌うなよ」と言ってついてきます。
原作には登場しない二人で、何も知らず東京に売られていく田舎娘(灯月)と、薬売りを装った女衒(ぜげん)です。
場面かわって吉原の近くの銘酒屋(めいしゅや。明治大正のころ東京近辺にあった、今で言う風俗を兼ねた飲み屋)菊乃井の店の前。
お高(朱魅)赤い着物で赤い房の簪で下手から出てくると
「ちょっと寄っていきなよ」と顔なじみの男に声をかけています。原作の冒頭の場面ですね。
信(しん)さんと呼ばれたその男「ゴメン、後でまた来るから」とか言って逃げていきます。
女「フン、どうせ来る気なんかないんだから」
ここでお力(牧瀬)こちらも赤い着物で登場。
仕事仲間のようですが
この息の合った二人の、こういう場面いいですねえ。
二人の会話から、お力の馴染み客だった源さん(源七)が今では財産を使い果たして裏長屋に妻子と暮らしていることがわかります。
そして結城(ゆうき)という羽振りの良い男がお力の新しい馴染み客になります。
お力と結城の酒をくみかわしながらの何気ない会話にも
それぞれの人生観が現れています。
さて店にやってきた娘と女衒。
出てきたお高、男を見ると(かつて自分もこの男に騙されてここへ売られてきたらしく)
「この人さらい」と罵りぴしゃっとやります。(マジ)
男は逆切れ。俺は人助けでやっているんだとか親もわかっていて騙されたふりをしているんだとかわめきます。
娘は家に帰ると言い出します。と、男は娘をなぐって(寸止め)お前の親はお前を売ったんだと言い放ちます。娘はその場につっぷして泣きます。大声から、やがて嗚咽に。
ここで山崎○コの「望○」(青い空、白い雲…)が流れ、
少しして娘は立ち上がって、貧しかった子供時代を独白。
こちら源七の家。
源七「お初、酒を買ってきてくれ」お初「そんなお金ありませんよ」
ここから夫婦喧嘩になっていきます。健気な女房、ふてくされた亭主、どちらも上手い。
源七は相手の言っていることが正論であるだけに逆上します。そして破局。
「勝手にしろ!」と言って家を飛び出します。
ここは店の座敷。
夏の夜か、打ち上げ花火の音が遠くに聞こえます。
お力と結城、しみじみ飲んでいます。
お力は貧しかった子供のころの話をします。(鷹揚に構えている結城にも、もしかしたら満たされない子供時代があったのではないか、などと想像されます)
そこへお高が
「お力ちゃーん、大変」と駆け込んできます。
ここからは原作にない展開になっていきます。
騒ぎが収まると
お力一人立って「東京は光の町…」とつぶやきます。
このへんから渋い男の演歌が低く流れます。
うしろから源七がやってきて何か言います。「もう思い残すことはない」と言ったのか。お力が何か言おうとすると男は「何も言うな」と言って持っていた包丁で後ろから…
お力は抵抗せず、振り向きもせず、そのまま立っています。
暗転。
男は去って行きます。(原作ではこのあと「男は美事な切腹」と)
静寂。
急に明るくなりロックンロールが流れフィナーレショーのようになっていきます。
登場人物が一人づつ踊るように入っては去っていきます。明るくちょっとコミカルに、悲恋の続いた雰囲気を吹き飛ばすように。拍手。
そのあと灯月、牧瀬、朱魅の3人が並び、笑顔で踊ると
灯月、朱魅の2人が去り、牧瀬だけ残り
乗り乗りのダンス。
笑顔で踊りながら着物をぬいでいきます。手拍子。
これが「にごりえ」の世界と違和感なく合っています。一葉女史の微笑が見えるような。
そんなふうに明るく盛り上がって終わります。拍手。暗転。9:10。
再び照明がついて
舞台に出演者10人全員出てきて 山口氏が順にメンバーを紹介。そして
「この艶絵巻、今回は明日までやっています。このあと11月はやって12月はお休みして
来年は1月から毎月やっていこうと思います。応援よろしくお願いしまーす」
ということで盛り上がって終わりました。拍手。
まだ興奮さめやらぬ、という所ですが、私は席を立ちました。
受付前では牧瀬さん朱魅さんなど出演の人たちがお見送りしてくれますが、
通路が狭いので話し込んでいると後の人がつかえてしまいます (^^;
階段を下りて外に出たのが9:17。
夜風が心地良かったです。
以上は個人の感想です。勘違い・記憶違いも多いと思います。m(_ _)m
- 10/28 13:05
- 行った人