長文レポのサンクチュアリ
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●「浅草艶絵巻」レポ

2015年4月24日(金)浅草リトルシアターに行って「浅草艶絵巻(つやえまき)〜日本文学と女の情景」を見てきました。「艶絵巻」シリーズ、私が見たのは一昨年9月の「凌雲閣十三階物語」以来です。
今回(4月21〜26日)は脚色・演出:山口六平で、芥川龍之介「蜘蛛の糸」と泉鏡花「外科室」の舞台化。出演は朱魅、結奈美子、牧瀬茜、椿舞妓の4人が日によって入れ代わりますが、この日は「蜘蛛の糸」がお釈迦様:朱魅、カンダタ:清田裕也(ゆうや)、語り:山口六平。「外科室」が伯爵夫人:結奈美子、医師:小林歩祐樹(ふゆき)、伯爵:小枝ノリユキ、看護婦:土屋麻衣(つちやまい)のメンバー(以上、敬称略)。
どちらも深く美しく原作に迫り、それぞれお芝居の終わりにダンスショーがありましたが、これは単なるアトラクションではなく、言葉で表現し尽くせなかった原作者のメッセージが伝わってくるのを感じました。以下、時間を追って。

地下鉄銀座線田原町(たわらまち)駅を出たのが午後6時半。初夏の夕方。少し風があります。浅草の街をのんびり歩いて劇場に着いたのが開演予定の6:45ちょうど。入口階段にはもう何人か待っている人がいます。5分ほど遅れて開場。予約してあったのですぐ入れました。入場料3500円。フライヤーをもらってすぐ中に入ります。2列目に座りました。
場内には軽いジャズのような曲が流れています。
お客は少しづつ増え、女性客もいました。ただ客入りは今一つといったところです。

開演の7時を少し過ぎたあたりで、山口氏が派手なシャツに黒いスーツを羽織り、帽子をかぶって左から登場。
「ハイ、いらっしゃいませ」拍手。
そして前説になります。
今日は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」と泉鏡花の「外科室」の2本立て、途中休憩はありません。そして出演者の紹介。男優陣はいつもはお笑いをやっている人たちだとか。5月の「艶絵巻」では江戸川乱歩作品が加わって3本立てになるとか。
5分ほどしゃべって引っ込みます。拍手。

少しして照明がやや暗くなります。
山口氏、帽子とスーツは脱いでシャツ姿で再登場。そして
「ある日のことでございます。
お釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました…」と語り始めます。さっそく物語世界に引き込まれます。以下、長い語りを山口氏は一人でやっていきます。
ここで妙なる音楽。舞台に上から光がさしてきて
下手からお釈迦様(朱魅)がゆっくり現れます。拍手。
頭に宝冠、淡く金色に輝くシルクのようなゆったりした上衣で神々しく、慈愛のまなざし。お釈迦様というより観音様みたいです。
語り「やがてお釈迦様はその池のふちに御佇(おたたず)みになって、水の面(おもて)を蔽(おお)っている蓮の葉の間から、ふと下の容子(ようす)を御覧になりました…」。
そして蓮池の下の地獄でもがいている?陀多(カンダタ)が目にとまり、何とか救ってやろうと考えるしぐさのお釈迦様。
語り「…それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛(くも)が一匹、路ばたを這(は)って行くのが見えました」。
ここでカンダタ(清田裕也)それらしいメークと衣裳で上手から荒々しく登場。しかし、どこか憎めない雰囲気。
カンダタは蜘蛛を踏みつぶそうとしますが(ふりだけで小道具はなし)
「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない…」と言って助けてやります。
お釈迦様はそのことを思い出して、出来るならカンダタを地獄から救い出してやろうと蜘蛛の糸を指先にとって垂らしてやります。(指先のしぐさで)

ここで暗転。
ゴーン、ゴーンと鐘の音。声明のような、うめき声のような音声。
闇の中に赤い照明。
「こちらは地獄の底の血の池で、ほかの罪人と一しょに、浮いたり沈んだりしていたカンダタでございます…」
語りも熱を帯びてきて実況中継のような臨場感。
もがいているカンダタ、ふと上を見ると糸が一筋(実際には何もない)下がってくるのを見つけ
それにすがって乗っていきます。
語り「このぶんでのぼっていけば、地獄から抜け出すのも、存外わけないかもしれません…」
そして声を出して笑います。ところが、ふと下を見ると…後は、御存じの展開。
まっさかさまに落ちていくカンダタ。
語り「あとにはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短くたれているばかりでございます」

再び極楽。
お釈迦様、悲しそうなお顔で再登場。
語り「自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、カンダタの無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の御目から見ると、浅間しく思召されたのでございましょう。
 しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着(とんじゃく)致しません。…何とも云えない好(よ)い匂が、絶間(たえま)なくあたりへ溢(あふ)れて居ります。
極楽ももう午(ひる)に近くなったのでございましょう。」拍手。(原作は 大正7年(1918)鈴木三重吉創刊の児童向け文芸誌「赤い鳥」創刊号に発表)

お釈迦様は静かに舞台奥に立っています。
ここで音楽が静かに、そしてスケール大きく流れてきます。(「坂の上○雲」主題歌 Stand al○ne)
ここからゆっくり前に出てきてダンスになります。
カンダタのみならずおろかであさましい人間を
罪ごと大きく包み込むような、慈悲に満ちた踊り。
ありがたくなります。
そしてボーカル
「小さな光が 歩んだ道を照らす…
迷い悩むほど 人は強さをつかむから…」
ここで金色の帯をはずして
上衣を脱ぐと、
下は白いベアトップのシンプルなロングドレス。
やがて肩ひもをはずし
ドレスを脱いでトップレスに。
迷い悩み、苦しんだ末の救いの世界のように。
大きく盛り上がり
後ろ向きになって
ドレスをストンと落とし
そしてポーズ。拍手。
暗転。

ここでツィゴイネルワイゼンが流れます。甘美で哀愁のあるヴァイオリンの調べ。
ここから引き続き「外科室」になっていきます。
やや青い照明。
舞台奥に着物姿の女性(結奈美子)が下手から静かに現れます。無言で無表情。
一方、上手からは白衣を着た長身の男性(小林歩祐樹)が現れます。やはり無言で無表情。
二人、しばらく目を合わせません。が、やがて互いに近寄って、静かに抱き合います。
再び暗転(あるいはカーテンが閉まったか)
少しして幕が開くと
舞台中央に寝台。眠っているのは伯爵夫人か。
病みつかれた白い顔が、可憐でかわいい。
下手では先程の白衣の医者が、やはり無表情に椅子に掛けています。
上手では看護婦(土屋麻衣)が昔の看護婦衣裳で薬剤を扱っている様子。
3者ほとんど動きはありませんが、この場面、
深い憂愁がただよっていて、シンプルな背景と相まって
それだけで絵画作品です。

少しして、着物姿の伯爵(小枝ノリユキ)が入ってきます。夫人は目をあけます。
重苦しい雰囲気。
皆の会話から、幼い娘がいること、夫人が重い病で胸の手術が緊要であること、そのため麻酔の必要があることが分かります。
しかし夫人は麻酔の使用を拒みます。麻酔をするとうわごとで自分の心の秘密をしゃべってしまいそうだからとか。
伯爵「奥、それは私にも聞かせられないことなのか」
夫人「はい、誰にも聞かせられません」
温厚な伯爵、華奢ながらかたくななまでに意志の強い夫人、クールな(しかし熱い情熱を秘めている)医師、そして進行役を兼ねた看護婦。それぞれ存在感があって上手い。
そして、麻酔なしで手術することに医師が同意。動揺する伯爵と看護婦。
「メスを渡しなさい」看護婦から奪うようにメスを受けとり
「こわいですか」と問う医師に夫人
「いいえ、あなただから」
そして夫人は自らメスに手をかけて自分の胸にグサリ。
そのあとすぐ医師もそのメスで自分の喉をかき切って
夫人の体の上に倒れ込み、力の抜けた手からメスが、床に落ちます。
暗転。
少しして
看護婦一人だけ前に出てきて
「この二人に何があったのか、泉鏡花は書いていません。すべては二人だけの秘密です。
今の世も二人だけの秘密をお持ちの方々はたくさんいそうですね」と言うと
意味ありげに笑みをうかべて下手へ去っていきます。
暗転。

舞台に照明。やや暗め。
気高さと哀愁を帯びた、バロックのような音楽が流れ、
夫人、淡いもえぎ色の着物で登場。静かに踊りになります。
やがて踊りながら帯を解いて
着物ははだけ、胸を露に。
そして狂おしく、秘めていたものを吐き出すように
踊り回ります。
最後は舞台の奥に行って後ろを向いて、着物をさらりと下に落とし
そしてギリシャの女神像のように美しくポーズ。
しばらくそのまま。時間が停止したように。
ここで医者がまた無表情にやってきて、二人、
やや離れたまま無言で顔を見合わせています。
やがて溶暗というのか、
少しづつ照明が消えていきます。拍手。

舞台が明るくなってカーテンコール。
出演者7人が並んで順にお辞儀。それぞれに暖かい拍手。
最後に山口氏が簡単なご挨拶。そして「このあと8:30から第2部になります。内容は同じですが
お芝居は生ものです、全く同じということはありません、よろしかったら通してごらん下さい」
そして「本日はご来場ありがとうございました」改めて拍手。
そんなふうにして第1部が終わります。8:00頃。

私は2回目も見ることにしました(通しで見ると割引)。
残って通しで見る人は多いようです。第2部を見る人も少しづつやってきます。
出演者と話している人、記念写真を撮っている人などなど。

8:30になって第2部の開演です。今回は私は一番前の列に座りました。
山口氏の前説があり、そして始まります。
やはりう2回目だと細かい所がよく見えてきます。
主演女優の朱魅さん結奈美子さんのお2人は言うまでもなく
男優陣が、ふだんお笑いをやっているというのが信じられないくらい名演技。
また看護婦役の土屋麻衣さんが要所要所で舞台をしっかり締めて。 そして
山口氏の語りは、語りと言うより主演というか独演というか、とにかく熱演。
盛り上がって終わりました。拍手。9:20。

今日見に来て本当に正解でした。そして
「艶絵巻」は毎月4週目にやっていくつもりだとか、ぜひ続けていただきたいと思います。
  
以上は個人の感想です。勘違い・記憶違いも多いと思います。m(_ _)m

- 04/26 21:13
- 行った人


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