4年ほど昔、奈良市に泊まった時です。
夜8時を過ぎれば水商売以外すべて閉店。真っ暗です。
ホテルの風呂から上がり、軽い空腹をおぼえ、
灯りを頼りに路地を歩いていると背後から雨音がひろがり、
ぼんやりとスターミュージックの看板が見えました。
「いらっしゃい」
というので、雨宿りのために仕方なく入ると、中は真っ暗で、
ヨタヨタと手探りでイスを探し、座るはめになりました。
眼が暗闇に慣れてくると場内には誰一人。
客のいないことがわかりました。
7分ほどで、「本日はようこそおいでくださいました」とアナウンスが始まり,
赤や青や黄色のライトがクルクル輝き出し、
スモークの中から踊り子が影絵になって出てきました。
たった一人ですからトイレにも立てません。
ダンサーの方も客が一人だけですから、
普段なら黙って踊るだけなのが、いろいろと話しかけてくるわけです。
1番目の子はこの仮の世界を成立させている人物に興味を持った様子で、
テレビの天気予報を報せてくれたり、カサを持って行けとか、
寒ければストーブを出そうかと気遣ってくれました。
ここで本来の見る側と、見られる側が逆転していることに気付きました。
2番目の子に「ホテルの風呂場で靴下を洗濯するんだ」というと、
「ちょっとまって」と楽屋へ引っ込んで、
袋に入った新品のメンズソックスを渡してくれました。
亭主か恋人(ヒモともいう)のものでしょうが親切です。
3番目の子は退屈しないようにと、スナック菓子を2袋、
舞台のうえから渡してくれました。
4番目の子にコンビニの場所を訊ねると、踊りを中断し、
すっぽんぽんのまま、外の切符売り場まで聞きに行きました。
ミニチョコを持ってきた5番目の子は持ち時間をオーバーして
業界の悲哀を語ってくれました。
みな苦労に汚れない女たちでした。
- 12/23 17:03
- 私もスケベ