白の和装。きらきら光る簪。鈍い光を放つシルバーの帯。右手に大きく開かれた白い羽根扇子には‥ひと差しの「朱い色」。
と。静寂に響き渡る女性の声。差し迫った雰囲気。「決意」の滲むモノローグ。続いて曲が掛かる。ポップなメロディ。伸びやかで、適度にエッジの効いたムーヴ。だけど決して‥明るくはない。
白く大きな羽根扇子は優雅に宙を滑らせる事で冬枯れの空を往く遥かなる鳥影になり‥また、後ろ手にふるふると震わせる事で雪原に降り立った一羽の冬鳥にもなる。捲れ上がる衣装の裾の「朱色」とシルバーの帯の上端に僅かに覗く「緑色」が、和装の「白」との対比で色鮮やかに映えている。白い衣装を脱ぎ去ると微かに柄を散らした朱色の肌襦袢姿になり、緑の帯揚げを本舞台右から左方向へと勢い良く放る。また、襦袢を結わえていた二本の白い帯もほどいて激しく振り廻される。が、空中に描き出される軌跡は艶やかで優美な物だ。
一旦袖に退き、仕切り直して本舞台で「三つ指」をつき、深く一礼をしてからベッドショーが始まる。静々と歩を進める身に纏う襦袢の「朱」は初夜に伴う破瓜のイメージなのか‥自らの身体を削って美しい反物を織り上げる際に素肌に滲む血の色なのか。人払いをして、多分一人きりの居室。手にした白い反物に視線を落とし、その一方で後ろ手にした白い羽根扇子がふるふると震えている。人の形をした「人ならざる者」が類い稀な自己犠牲の果てに美しい反物を織り上げている‥。
控え目に見えて芯が強く、自分が決めた約束事は頑なに譲らない〜この物語のヒロインのキャラクター造形に、演者「吉沢伊織」その人を見る。フィクションを演じているのに生の感情を激しく揺さぶられる気がするのは、演じる「対象」と「本人」の間のブレが極めて少ない事の証左なのかも知れない。
- 01/20 15:55
- くるりん