新宿ニューアート
[投稿する]
●HIKARUさん 2015-04-16 (3rd) stage (1/2)

控え室の片隅に、古びたデスク&チェアー。椅子に座り、片肘をつき、肉厚で大振りなグラスにたっぷりとバーボンを注ぎ、飲んだくれる‥一人の女。遠くから聞こえるざわめき。「イッツ‥ショウタ〜イム!」MCの男の声と音楽、客席のどよめきも遥か彼方で‥ダンサーである彼女の出番には、まだ、だいぶ時間がある様だ。

「イッツ‥ショウタ〜イム!」

先刻は消え入りそうに小さく、遠くに聞こえたその声が大きく‥はっきり聞こえるとスクッと立ち上がり、静かに袖に退く。やがて「カッ‥カッ‥カッ」とハイヒールの音も高らかにステージ中央に進み出ると、そこから先は「彼女」の時間だ。たっぷりの白いフリンジで飾りつけられたシルバーのレオタードドレス。黒いシルクハット。テーブルに突っ伏して正体なく酔い潰れている姿からはおよそ想像がつかない‥キレのあるダンスで観客を魅了すると、艶やかに微笑みながら袖に退く。

再び控え室。いつしか机の袂に置かれている大きくて白い箱は衣装ケース‥なのだろうか。見覚えのあるレオタードドレスと黒いシルクハットを中から取り出しかけるもすぐに引っ込め、代わりに白いモールで飾りつけられたエレガントなロングドレスを胸元に当てがうと立ち上がり、瞳を潤ませながら軽やかにターン。どことなく陰鬱で悲しげな表情は、この衣装を纏ってステージに立つ事がついに叶わなかった‥と、暗に仄めかしているのだろうか。サテン地のパープル‥キャミソールの上に同色のブラウスを羽織る部屋着のままでテーブルの上のグラスを掴み、踵を返すとツカツカと歩を進め、盆の上に。床にペタリ‥と腰を下ろすと膝を立て、しどけなく開いた脚の片方に頬を寄せる。自らの視線の高さに掲げたグラスを燻らせて琥珀色の液体を揺らしてみたり、その後で一気に飲み干して見せたり。本舞台に取って返してからはデスクの上に座ってブラつく脚を遊ばせながら心ここに在らず‥といった体で飲んだくれて見せたり‥と、酒に溺れる「失意のダンサー」の内面が、ステージ全体を使って繊細に、丁寧に描かれてゆく。

- 07/12 23:35
- くるりん


0.HOME