『宮崎勤裁判』
佐木隆三
朝日新聞社:ISBN4-02-256329-X C0095(上巻)/1602円
ISBN4-02-257198-5//-257199-3(中・下巻)/1800円
98年1月2日読了
 
お薦め度
★★★

    
連続幼女誘拐殺人事件の犯人・ 宮崎勤の裁判記録である。といってもいわゆる「記録」とは少し違う。作家・佐木は、法廷に通い詰めて丹念に採取した情報を巧みな構成で呈示してくれる。つまり犯人=宮崎の内面を見つめる、倒叙推理小説のようにも読めてしまうのだ。そしてミステリとして読み進むと、ミステリの本体=「宮崎勤の内面」は深い深い霧の中へと隠れてゆく。ミステリファンにも猟奇者にもたまらない、、、これぞ宮崎ものの決定版だ。
『復讐するは我にあり』で知られる佐木隆三は、88年に法廷メモの自由を求めて提訴したり、『死刑囚永山則夫』を書いたりと犯罪実録ものの名手でもある。
扇情的にならずに、誠実に公判の様子を伝えることが、即ちミステリになるということがよく分かっているのだろう。しつこいほど丁寧に、調書や証拠物件をめぐるやりとりが記録されていて、佐木の感想めいた記述は非常に少なく押さえられている。
宮崎勤よ、お前は何者だ?
三巻を通してのテーマである。当然、精神鑑定の信憑性が興味の中心となる。宮崎は逮捕直後の簡易鑑定を含め3回の鑑定を受けている。のべ10人の精神科医によって1147日間をかけて行われた、この鑑定結果がまさに裁判の争点であり、その争点を要約すれば、宮崎は単なる人格障害なのか、それとも多重人格なのか、ということに尽きるのだ。宮崎裁判は日本で始めての多重人格を争う裁判となったのであり、判決は人格障害を採った。
ネズミ人間、肉物体宮崎の証言で登場した言葉だ。宮崎が解離性同一性障害(多重人格)なのか、障害を装っているのか、装っている内に多重人格に陥ったのか、、、筆者自身、結論を出してはいない。後に『宮崎勤精神鑑定』で、この裁判には日本の精神医学界の勢力争いが影響していることを指摘する声があったように、今も謎は灰色のまま残されている。佐木は宮崎の「心がチクチクするから顔つきを出来るだけ変えないように努めています」という言葉に真実を垣間見たようだが、、、。
僕にとって奇妙だったのは被害者・野本綾子ちゃんの死体の性器を、ガムテープを貼って広げドライバーを突っ込んだという証言だ。何か違和感がある。検察側の主張する「性欲のはけ口としての殺人」という分析よりも、宮崎の「観察行為だった」と言う証言の方がしっくりくるのだ。
そして読み終わった後には、今、この時も、彼は独房で壁を見つめ、あの表情を消し去った顔で静かにマンガを読んで、、、と、変に落ち着かない気持ちにさせられるのだ。
 

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